傀儡の恋
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ラクス・クラインがプラントに一時的に戻ることになった。もっとも、あちらとしてはずっといてほしいと思っているようだが、ラクス本人が断っているらしい。
「……いざとなればミーアさんに協力を求めるしかないですわね」
小さなため息と共に彼女はそうつぶやく。
「協力って?」
「コンサートですわ」
キラの問いかけに彼女は即座にそう言い返す。
「彼女の歌は彼女だけのものですもの。わたくしにはない魅力ですわ。それを埋もれさせてしまうのはもったいありません」
確かに彼女はデュランダルに利用されていた。しかし、そのくらいはいくらでもごまかしようがある。ラクスはそう言って微笑む。
「……あまりみんなを振り回さないでね」
キラが小さな声でそう言う。
「もちろんですわ。アスラン以外にはそのようなことしません」
それも何なのだろうか。そう考えたのは自分だけではないだろう。
「ラクス」
キラがため息なじりに彼女の名を呼ぶ。
「アスランは自業自得ですのよ」
しかしラクスはそう言って微笑むだけだ。
「当面はザフトの立て直しになります」
だがすぐに表情を引き締めるとそう告げた。
「それに関してはオーブの方が安心できるくらいですわ」
彼等は皆、オーブを守ることに誇りを持っている。それに協力してくれるならばナチュラルだろうとコーディネイターだろうと関係ないと言い切れるだけの柔軟性を持っているのだ。
だが、ザフトは違う。
彼等はまず、自分が《コーディネイター》であると言うことが重要なのだ。ナチュラルに関しては二の次だと言っていい。
その意識を変えなければいけない。
ラクスのその言葉は納得できる。だが、とラウは口を開く。
「難しいことではないのかな?」
「わかっています。ですが、今でなければなりません」
今ならばまだ、お互い歩み寄ることが可能だろう。ラクスのその意見ももっともかもしれない。
「幸い、イザークさん達が協力をしてくれますし」
厄介な上層部は一掃されている。言外にラクスはそう続けた。
「でも、大丈夫なの?」
キラが不安そうに問いかける。
「大丈夫だと思いますわ。バルトフェルド隊長も一緒に来てくださいますし」
でも、と彼女は微笑む。
「キラが一緒に来てくだされば怖いものはありませんわ」
その言葉にラウは眉根を寄せる。
「本気で言っているのかね?」
そのままストレートに問いかけた。
「キラに『表に出ろ』とはもうしません。ただ、そばにいてくださればいいだけです」
プラントであのときのようにゆっくりしてくれればそれでいい。彼女はそう続けた。
それがいつのことかと考えれば、すぐにだいたいの時期が推測できた。その結果、キラはフリーダムを手に入れたのだろう。
あれがすべての転機だった。
だが、今はそれはどうでもいいことではないか。
いったい何故彼女がそう言いだしたのかの方が重要だ。
「ついでに言えば、アスランへの嫌がらせです」
それだけが本音ではないだろう。だが、それも理由の一つだろうと言うことはわかる。
「……あちらにはまだ、キラに反感を持っている者達がいるはずだが?」
「ならば、あなたも一緒にいらっしゃればいいでしょう? そうすればキラを守れますわよ」
意味ありげな笑みと共にラクスはそう言う。
「それが狙いかな?」
「どうでしょう」
「……キラが望むのなら、私としてはやぶさかではないがね」
いやがるのであればやめておくべきだろう。この言葉にラクスはさらに笑みを深めた。